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これはまだ、王霖であった頃の話。

「貂蛉?貂蛉?」
「姉上。どうなされました、そんなに慌てて」


柱の陰から顔を覗かせると、貂蝉はこちらへと飛んでくる。
服の裾が乱れるのも構わずに走ってくると、王霖の体をかき抱いた。
姉を受け止めた王霖は、その華奢な背中を軽く叩く。


「ああ貂蛉、どこに行ってしまったのかと思ったわ」
「姉上の好きな柘榴が庭の木になっていたんですよ」


柘榴の実を採ったときに、純白の服が少し汚れてしまった。
董卓に見つかったら、鞭で叩かれるかもしれない。


「あの男にそんな事ができるかしら」
「やりかねませんよ。あの男が俺を傍に置くのは、この顔だからでしょう」


貂蝉と瓜二つの顔立ちのおかげで、王霖は生かされている。
董卓は女にしか欲情しないから、男である王霖の体になど興味がない。


「早く、奉先様があの男を殺せばいいのに。そうすれば貴方と二人きりで生きていけるわ」
「そうですね。連環の計が成功させて、一緒に生きていきましょう」


たとえ、叶わぬ願いだとしても。


(董卓の元にいた頃。王霖の存在を知っているのは貂蝉と董卓のみ)
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