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妻のものは夫である自分のものだと思っているようです。

玳瑁の櫛で髪をまとめ、金の鎖を編みこんで垂らす。
鏡を見れば、そこには姉の顔が映っているように見えた。


「おはようございます、姉上」


窓からは貂蝉の愛した牡丹が見える。
けれど、紅白の花園に彼女の姿などあろうはずもない。

当然のように、鴻霖の言葉に返事が返ってくることはなかった。


「鴻霖」
「これは曹丕様。俺になんの御用でしょうか」
「退屈している。何か話せ」
「典論の続きでも書かれては?」
「文官たちが口を出してきて敵わぬ」


廊下の向こうで文官たちの声が聞こえたのは気のせいだろうか。
曹丕が全く反応を返さないものだから、鴻霖は空耳かと思ってしまう。
曹丕の機嫌を損ねたであろう彼らの声は、それはそれは悲痛なものだった。


「では、俺が旅をしていた頃の話でもひとつ」
「頼む」


曹丕は見聞を広めるのに貪欲な性で、その部分は父の曹操とよく似ている。
父子揃って知識人であり、魏国の文化を繁栄させることに情熱を注いでいる。

適当に空いた部屋へと入るなり、鴻霖は話題を何にすべきか曹丕に選択肢を提示した。
皇太子が出した答えはひとつ。
思い出せるだけ全てを話せ、とのこと。


「もっと面白おかしく話しましょうか?」
「いや、今のままで良い」
「そうですか」


鴻家で商いを学ぶ前から、鴻霖は如才ない話し方も人を楽しませる話術も会得していた。
曹丕が望めば、話を脚色することなどあまりにも容易い。
だが鴻霖が淡々と事実だけを話していても、曹丕は興味深そうに耳を傾ける。

雑技団の一座に世話になっていた頃の話が一段落ついたところで、曹丕が不意に呟いた。


「鴻霖は、後宮の妃たちよりも美しいな」
「申し訳ありませんが、男色などまっぴら御免ですので」
「知っておる。それに、甄姫のものに手は出さぬ」
「ご賢明なことです」


確かに、鴻霖は甄姫に身も心も捧げた。
こう言うと語弊があるかもしれないが、たとえば彼女が死ねと言えばその場で死ぬ。
短刀で首を掻き切ってみせることも、鴆毒を飲むことも、火柱の中に飛び込むことも厭わない。


「曹丕様」
「なんだ」
「洛を、よろしく頼みます」
「あれが私の妻である以上、幸せにしてやるつもりだ」


妹のような、愛しい女。
だが甄姫は人妻であり、目の前にいる男の妃だった。


「もちろんお前もだ」
「はい?」
「鴻霖が妻のものである以上、私はお前も幸せにしてやろう」


絶句して、開いた口が塞がらない。



(真顔で何を言うかと思えば、あまりにも不似合いな言葉を吐いたから)
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