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張コウのコウが文字化けしてるかもしれませんが、ご了承ください。
「貂蛉」
「姉上。どうされました?」
「この髪留め、貴方にあげるわ。ずいぶん髪が長くなったものね」
「ああ……そろそろ切ろうかなと思ってるんですよ。女に間違えられるのにも飽きましたし」
貂蝉は銀の笄で弟の髪を手早くまとめていく。
大人しく姉に身を任せながら、貂蛉は溜め息を吐いた。
伸び盛りの背丈は姉とほぼ同じくらいの高さで、まだ声変わりを経験していない。
顔は瓜二つで、違うのは身体の丸みと表情の軟らかさ、性格くらいだった。
他人が見れば、十中八九姉弟の見分けは付かないだろう。
良くもここまで姉に似たものだと人に言われ、貂蛉自身もそう思う。
貂蝉はこの世でただ一人の肉親だから、彼女に似ているというのは、貂蛉にとって幸せなことではある。
「貂蝉、貂蛉」
「王允様!」
義父の王允に呼ばれ、姉弟は立ち上がる。
庭には美しい紅白の牡丹が咲いていた。
「鴻霖殿は牡丹がお好きですね」
「張郃殿も好きだろう?」
「ええ。けれど、牡丹に囲まれていると、貴方自身がまるで百花の王のようだ」
「牡丹と比べると、俺なんて霞んでしまうよ」
「ご謙遜を」
「いや、本心だ」
鴻霖の部屋に面した庭には、色も形も様々な種類の牡丹が咲き乱れている。
魏国中でも一、二を争うほど立派な牡丹園であり、夏には花を眺めに訪れる者も多い。
鴻霖が統括している兵站部の屯所にも牡丹が植えられていて、ゆえに魏の武将たちの間で「花王軍」というと鴻霖の軍を指した。
「そうして女の出で立ちをなさっていると、姉君を思い出しますな」
「張遼殿。姉が牡丹を好きなのを覚えてらしたんですか」
「ええ。お二人が一緒に花を眺めている姿は、この世の者とは思えなかった」
「この世の者でしたよ。俺も姉も、地面に根を張って生きてました」
会話が途絶える。
張郃も張遼も、鴻霖が見つめる牡丹を見ていた。
夜が更けて釣灯籠に火が入り、蛍が飛び交う。
鴻霖の髪に編みこまれた金の鎖が、灯火のなかで輝いている。
三人は無言のまま、ただ蛍と牡丹を眺め続けていた。
(夕殿蛍飛ンデ思ヒ悄然タリ、孤灯挑ゲ尽クシテ未ダ眠リヲ成サズ。白居易「長恨歌」)
「姉上。どうされました?」
「この髪留め、貴方にあげるわ。ずいぶん髪が長くなったものね」
「ああ……そろそろ切ろうかなと思ってるんですよ。女に間違えられるのにも飽きましたし」
貂蝉は銀の笄で弟の髪を手早くまとめていく。
大人しく姉に身を任せながら、貂蛉は溜め息を吐いた。
伸び盛りの背丈は姉とほぼ同じくらいの高さで、まだ声変わりを経験していない。
顔は瓜二つで、違うのは身体の丸みと表情の軟らかさ、性格くらいだった。
他人が見れば、十中八九姉弟の見分けは付かないだろう。
良くもここまで姉に似たものだと人に言われ、貂蛉自身もそう思う。
貂蝉はこの世でただ一人の肉親だから、彼女に似ているというのは、貂蛉にとって幸せなことではある。
「貂蝉、貂蛉」
「王允様!」
義父の王允に呼ばれ、姉弟は立ち上がる。
庭には美しい紅白の牡丹が咲いていた。
「鴻霖殿は牡丹がお好きですね」
「張郃殿も好きだろう?」
「ええ。けれど、牡丹に囲まれていると、貴方自身がまるで百花の王のようだ」
「牡丹と比べると、俺なんて霞んでしまうよ」
「ご謙遜を」
「いや、本心だ」
鴻霖の部屋に面した庭には、色も形も様々な種類の牡丹が咲き乱れている。
魏国中でも一、二を争うほど立派な牡丹園であり、夏には花を眺めに訪れる者も多い。
鴻霖が統括している兵站部の屯所にも牡丹が植えられていて、ゆえに魏の武将たちの間で「花王軍」というと鴻霖の軍を指した。
「そうして女の出で立ちをなさっていると、姉君を思い出しますな」
「張遼殿。姉が牡丹を好きなのを覚えてらしたんですか」
「ええ。お二人が一緒に花を眺めている姿は、この世の者とは思えなかった」
「この世の者でしたよ。俺も姉も、地面に根を張って生きてました」
会話が途絶える。
張郃も張遼も、鴻霖が見つめる牡丹を見ていた。
夜が更けて釣灯籠に火が入り、蛍が飛び交う。
鴻霖の髪に編みこまれた金の鎖が、灯火のなかで輝いている。
三人は無言のまま、ただ蛍と牡丹を眺め続けていた。
(夕殿蛍飛ンデ思ヒ悄然タリ、孤灯挑ゲ尽クシテ未ダ眠リヲ成サズ。白居易「長恨歌」)
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