忍者ブログ
拍手ログ等を収納しております。別リンクでない小説は、名前変換はありません。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

張コウのコウが文字化けしてるかもしれませんが、ご了承ください。

「貂蛉」
「姉上。どうされました?」
「この髪留め、貴方にあげるわ。ずいぶん髪が長くなったものね」
「ああ……そろそろ切ろうかなと思ってるんですよ。女に間違えられるのにも飽きましたし」


貂蝉は銀の笄で弟の髪を手早くまとめていく。
大人しく姉に身を任せながら、貂蛉は溜め息を吐いた。

伸び盛りの背丈は姉とほぼ同じくらいの高さで、まだ声変わりを経験していない。
顔は瓜二つで、違うのは身体の丸みと表情の軟らかさ、性格くらいだった。
他人が見れば、十中八九姉弟の見分けは付かないだろう。
良くもここまで姉に似たものだと人に言われ、貂蛉自身もそう思う。

貂蝉はこの世でただ一人の肉親だから、彼女に似ているというのは、貂蛉にとって幸せなことではある。


「貂蝉、貂蛉」
「王允様!」


義父の王允に呼ばれ、姉弟は立ち上がる。
庭には美しい紅白の牡丹が咲いていた。


「鴻霖殿は牡丹がお好きですね」
「張郃殿も好きだろう?」
「ええ。けれど、牡丹に囲まれていると、貴方自身がまるで百花の王のようだ」
「牡丹と比べると、俺なんて霞んでしまうよ」
「ご謙遜を」
「いや、本心だ」


鴻霖の部屋に面した庭には、色も形も様々な種類の牡丹が咲き乱れている。
魏国中でも一、二を争うほど立派な牡丹園であり、夏には花を眺めに訪れる者も多い。
鴻霖が統括している兵站部の屯所にも牡丹が植えられていて、ゆえに魏の武将たちの間で「花王軍」というと鴻霖の軍を指した。


「そうして女の出で立ちをなさっていると、姉君を思い出しますな」
「張遼殿。姉が牡丹を好きなのを覚えてらしたんですか」
「ええ。お二人が一緒に花を眺めている姿は、この世の者とは思えなかった」
「この世の者でしたよ。俺も姉も、地面に根を張って生きてました」


会話が途絶える。
張郃も張遼も、鴻霖が見つめる牡丹を見ていた。

夜が更けて釣灯籠に火が入り、蛍が飛び交う。
鴻霖の髪に編みこまれた金の鎖が、灯火のなかで輝いている。

三人は無言のまま、ただ蛍と牡丹を眺め続けていた。



(夕殿蛍飛ンデ思ヒ悄然タリ、孤灯挑ゲ尽クシテ未ダ眠リヲ成サズ。白居易「長恨歌」)
PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
カレンダー
03 2025/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30
フリーエリア
最新CM
(05/26)
(05/23)
(05/22)
(05/20)
(05/19)
最新記事
最新TB
プロフィール
HN:
彩瀬
性別:
非公開
バーコード
ブログ内検索
最古記事
(05/15)
(05/19)
(05/23)
(05/24)
(05/26)
忍者ブログ [PR]