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「……くん、紡君!」
『はい?』


名前も知らない、多分先輩だろう女の子に呼び止められる紡。
卒業証書が入った筒を肩に乗せ、女の子の方に振り向く。


「第二ボタン下さい!」


女の子に囲まれ、周りの野郎どもに冷やかされている紡。


『すいません、ボタン、もう無いんです』
「えー?!」


ブレザー、セーラー、私服。
様々な他校女子の悲鳴が上がる。


「はーい、紡君のブレザーボタン五個はこっちで販売してまーすっ!!」


紡に卒業証書を持たせたままの先輩が、紡のボタンを一個二千円で売っている。
売り上げ金はバスケ部の送別会費用に充てられる仕組みだ。
紡の他にもモテる奴らのボタンは売買されてて、代々の伝統行事になっているらしいけど。

もちろん俺やそいつらには先輩のお古のブレザーが支給されるわけ。
でなきゃ明日からボタン無しだからな。

けど、一人分で二千×五=一万円はぼったくりじゃねーのか。


「第二ボタンは五千円!!」


二千×四=一万三千円。
高い、高すぎる。
そして買うな、女子高生。


『……東、行こう』
『どこに』
『部室』


卒業式という告白ラッシュシーズンのせいで、紡はかなり疲れているらしい。
自分の卒業式でもないのに、どうして俺らは苦労するんだろう。

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『なぁ、頼むわ』
『…………わかった、えぇよ』
『ほんま?』

嬉しそうな声で、聞き返してくるお前。
や、正直ほんまは嫌なんやにゃどさ。
なかなかしつこいし、他のクラスメートに笑われとるし。

それが正直、面白いんやけど居たたまれん、って言えばえぇんかなぁ。

『おーい、豊本がOKsてくれたでーっ!!』

窓を開けて、体育館の近くに居る集団に向かって叫ぶ。
すると、野太い声が聞こえてくる。
それはやったー、とか、よっしゃー、とか。

誰か一人でえぇから、嫌じゃー言うてくれんかな。
そしたら俺、断れるんにゃけど。

『齋木、お前女の子に頼む気無いん?』

お前やったら、引く手数多でしょーに。

『なんかアカンねん。豊本が一番器用やろ?』
『……ってかさ』
『ん?』
『わざわざ朝一に教室で言わんでも、部室で言えば良いのに』
『なんか忘れそうやったから』

カラカラと笑う。
……確かにお前は忘れっぽいよな。

『んじゃよろしくな、相棒!!』
『や、バスケは5人でするもんでしょ』
『それでも同じFWやねんから相棒やねんて』
『……さよか』

思わず納得してしまう。
だから、天然なんて言われるんやろか。
ま、えぇわ。

とりあえず、これからよろしく、相棒?
いつだって、俺は忘れないよ。
お前のことを考えて、一音いちおんに、心を込めて。
届いて欲しくない想いを乗せて、ホールの向こう側まで感動を届けるんだ。

『……いつの日か……君の笑顔が見れるまで……僕は泣いていよう……』

笑顔の仮面を被って 胸の痛みを押し殺して
君が幸せになるように祈って 自分の幸せを逃していく


『……紡ってさ』
『ん?』

次の曲のメロディーを聴きながら歌詞を作っていると、東がふと呟いた。

『ソロのとき、いっつも悲恋っていうか切な目な歌作るよな』
『東はどこまでもポップな曲だよな』
『そうそう』

二人で歌うときは、ハーモニー重視の歌。
しっとりのバラードも、ダンスナンバーも、ロックも。
全部、調和がとれた曲をコンセプトにして。
ふとした瞬間に口ずさんで貰えるような、そんな曲を目指している。

元々は俺も東もソロ、というかピンで活動してたんだけど、同じ事務所で同じ年、同期ということもあり、テレビや互いのコンサートにも何かと共演している。
俺のファンの中に東のファン、東のファンの中にも俺のファンっていう子も多くて。

「人気急上昇中の二人がユニットを組めば、相乗効果間違い無しだ!!」

……なんて、社長のひと言で今は主にユニット、たまにソロという形になっている。
まぁ社長はやり手だから、その読みは見事当たった訳なんだけど。

『俺、紡の歌好きだな~』
『俺もお前の歌好きだよ、ノリも良いし、なんか勇気づけてくれるってカンジ?』
『お前のは聴かせるんだよな、心に響く。さすが、うちの事務所一の歌唱力だな』

……東がそんな風に言うなんて珍しい。
いつもならそんなことは言わないのに。
……もしかして、もうあの命令が下りたわけ?

『社長から、なんか言われた?』
『……なんか、バンド組めって』

うちには、俺らと同世代のバンドが居る。
そいつらもめちゃくちゃ売れてるんだけど、東が入ってダブルヴォーカルになるんだそうだ。

『良いじゃん、お前前にバンド組んでたんだし』
『……紡はそれで良いのかよ?』
『しょうがねーよ。俺が言ってもどうにもなるもんじゃねーし』
『……どーせまたすぐにお前と組めるようになるよな?』

期待のこもった目で、俺を見てくる東。
とりあえず俺は嘘をつける性分ではないので、苦笑で返しておいた。

『……あ、じゃあこの曲お前にやるよ』

この曲、とは今作詞している曲で、東のために、というのは東がバンドデビューするのを祝って、という意味だ。

『良いのか?』
『あぁ。”俺とお前が不仲で解散”なんてマスコミに言われたくねーし』
『どーせ乗るなら”紡と東、美しい友情の一曲”って方が良いよな』

もっとも、俺らは不仲なんかじゃない。
社長が東にバンドデビューしろって言ったのも、きっと、これが俺の最後の曲になるからだろうし。
俺が居なくなったら、稼ぎ頭は東くらいだし。

そんな色々な想いは、笑顔で楽屋を出て行く東には言わないでおいた。

『……かんばれよ東、俺の分まで』




「……おい、東、テレビ見たか?!」
『なんだよ急に……え?』
「だからっ!!……紡、アイツ喉の病気に冒されててさ!この間の曲が最後の曲だったんだってさ!!」
「あの曲をレコーディングし終わった後すぐに入院したらしいけど、俺らのデビュー日の次の日に、病院で息を引き取ったって……」

……なぁ、東、俺の曲、お前に届いたか?
長くて、濃くて、多い睫毛。
少し青みがかった白目が、ただでさえ黒目がちな目を潤んでるように見せて。

決して白いわけじゃないけど、黒くはない健康的な肌。
平均より少し高い、うちのバスケ部では真ん中くらいの身長。

ケアはしていないっぽいけど、でもバサバサじゃない。
ワックスでアホ毛だけを押さえてる、、割とサラサラな焦げ茶色の髪。

『……茱璃?何見てんだ』
『ん、いや、特にはなんにも』
『変なヤツやな』

元々は関西の生まれらしく、時々関西弁が出る。
関西弁を使う人は関西圏を出てもずっと関西弁を使うらしい。
逆に標準語を喋ってる人が関西や他の方言の所に行くと、たちまちその言葉が移るらしい。
俺のじいちゃんも関西に住んでるから、俺の言葉にも時々関西弁が混じる。
……というか、二人で話し出すともろに関西弁なんだけど。

関西弁のままだときつく聞こえるから、と。
彩瀬は普段標準語を喋ろうとするけど、イントネーションは関西弁のまま。
標準語だと自分が冷たく感じるらしい、俺にはよくわからない理由だ。
でも、それが彩瀬らしい。

周りとうち解けて、でも自分を忘れない。
そんな彩瀬だからこそ、俺は信頼している。
親友、クラスメート、チームメイト、部長副部長。
俺と彩瀬は色んな言葉で言い表せる関係で、自他共に「仲が良い」と思っている。

**少し長くなりそうなので**
どちらかというと、俺は傷つきやすいタイプだけど。
でもそれを悟られるほど、感情を表に出すことはできないタイプで。
どんなに傷ついてても、絶対に気づかれたことはなかったんだ。
だからなのか?
いつからか、痛みさえわからないほどに麻痺してしまったのは。


『彩瀬!』
『……静かにしろよ、ここ図書室』
『あ、』

周りの視線が痛い。
高校の図書室なんて、本当に本好きのヤツが来るところで。
そいつらは比較的大人しいというか、真面目そうなヤツが多い。
そのせいか、そんなに露骨ではない程度の避難が茱璃に集まる。
俺は暇さえあればココにいるから、みな俺に対しては結構好意的だけど。

『で、何?』
『いや、何も』
『は?……んじゃ、教室戻れば』
『んー、それは確かなんだけどさ』

俺は本を読みたいし、そのジャンルもなかなかにマニアック。
後で部活とかクラスのヤツに、笑いのネタにされるのは嫌だ。
だから一人で来てるのに、茱璃が居るのは、邪魔でしかない。

茱璃と居るからと言って、常にドキドキしてるわけじゃないし。
むしろ全く何にも感じていないと言った方が正しい。

じゃぁなんでスキってわかるのか、って?
答えは簡単。
ただ、他のヤツよりこいつと居たいと思うから。
だから親友なんていう微妙な立場に甘んじているわけで。
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