立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の如し。
首都・洛陽一の豪商である鴻家を後ろ盾に持ち、皇后たちにも引けを取らぬほどの教養を誇る。
後宮を取り仕切る女官長であり、将兵たちにとっては高嶺の花。
だが。
「貂蛉!話がある」
「宮廷内では姓で呼べと言ってるだろう、仲達」
華やかな装束を纏っていても、中身は紛うことなき男。
司馬懿の呼びかけに地声で答える。
鴻霖が振り返れば、冷徹無比と畏れられる軍師が立っていた。
「相変わらず、女は無駄に煌びやかな衣服を着るのだな」
「うるさいな……で、一体なんの用だ?」
音に聞こえた百花王と、今の己が同じ人間であるとは誰も気付くまい。
知っているのは部下と一握りの武将だけ。
司馬懿もまた、鴻霖の持つ二つの顔を知っている一人だった。