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「いちまんねんとにせんねんまえからあーいーしーてーる~♪」
「お前、ウチに来てまで何歌っちゃってんの?」
「お、慎ちゃんみーっけた!」
「慎ちゃん言うな!お前の声はよく通るんだからよ」

なんせ第××回NHK杯全国高校放送コンテストで入賞するほどの美声かつ滑舌なのである。おまけに武蔵野第一高校放送部は決して名門とはいえないので、寛の入賞は大変な快挙といえよう。

「で、ユタは何しに来たんだよ」
「圭ちゃんに六法全書返しに来たのと、お宅の高瀬準太クンを拝見しに」
「準太を?ってなんでまた六法全書なんざ借りてんだよ」
「なんか滑舌良くなりそうじゃねぇ?」

へらへらと笑う様子に騙されがちだが、寛が中学時からプロのスカウトに目を付けられるほどの名捕手だったことを島崎は知っている。
だから、野球の話をするときの寛の目がいつになく真剣になるのを島崎は見逃さずにいた。選手を離れても、未だなお衰えぬその才知を。
もっとも、今一番気になるのはどうして山ノ井が六法全書なんぞを持っているのか、ではあるが。

「慎吾サン、何してんスか」
「準太」
「あ、君が高瀬クン?俺喜多寛って言います、よろしくね」
「きた、ゆたさん?桐青じゃないッスよね、その制服……」
「俺は武蔵野第一高校放送部部長だから、高瀬クンは知らないと思うよ。君、ココのエースピッチャーなんだって?和己から聞いてるよ」

さっきまでとは打って変わって、準太に対しては「まともで良い人のように」話す寛。彼の恐ろしさは、どこまでも相手を探るのに余念が無いところであろう。人を見抜くという点では、寛に敵う者を島崎達は知らない。
この分析力、戦地眼こそがあの榛名に決して首を振らせず、今の武蔵野第一の勢いを生み出したと言っていい。
島崎がそんなことを考えているとはつゆ知らず、寛は淀みなく、かつ知性を感じさせる話し方と美声を持って高瀬を「分析」していく。それも、決して単純でもバカでもない高瀬に怪しまれぬように何重にもオブラートで包んだ言い方をもってして、だ。

「お、ユタじゃないか!どうしたんだ?」
「和己ィ。圭ちゃん知らない?」
「山ちゃんならグラウンド整備してるぞ。呼んでやろうか?」
「うーん……。俺も練習加わっちゃダメ?なーんちゃって」

冗談とも、本気とも取れるような口調で言い放ち、寛は笑った。

「冗談だよ、んじゃコレ和己から返しといてくれん?」
「あ、あぁ……良いぞ」
「サンキュー。んじゃまたな、和己、慎吾、高瀬クン」

垣間見せたしなやか獣のような獰猛さに高瀬らがショックから抜け出せないで居る中、マイペースに帰ろうとしていた寛が再び回れ右してこちらへとやってくる。

「言い忘れてたんだけどさ」

フェンスに指を掛け、一言一言に絶対の重みと揶揄を混ぜ。

「俺、今年からショートとして部員復帰することになったから……呂佳さんにも言っといてくんない?俺も元希も、折角のお誘い断っちゃってスイマセン、ってさ」

元希が武蔵野に来るの、俺を追っかけてきたからだしね。そう言い残して寛は去っていった。

「……和さん。なんなんスか、アレ」
「アレが、ユタの本性とでも言えば良いのかな。アイツは野球に対しては恐ろしいヤツだからな」
「喰われるかと思った……初めてだ、こんなの」

望まなくともARCやその他県内外の強豪校から数多のスカウトを受けていただけのことはある。寛には、高瀬にはない圧倒的な強さがあった。詳しく言葉には言い表せないほどの、なんらかの強さに呑まれてしまった。

「……準太。今年の武蔵野第一、一試合目から偵察行くぞ」
「ッス!」

それは、まだ準太が二年になる年の2月のことだった。
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なぁなぁ、ここだけの話。
豊本って頭えぇんやで。
だって前日も勉強してへんし、提出のワークやったって答え丸写しやもん。
なのに常に上位20番内ってどーなん?
神様って不公平よなぁ。


いつも思ってることやけど、齋木は結構努力家。
スポーツ万能、武道が得意。
毎回主席で成績優秀。
性格も顔も良くて人気者。
今も目の前で真面目にメガネ掛けて勉強してはるんよ。
なんなんやろね、このマンガのヒーローみたいなお人は。


「なぁ齋木、部活行かんでえぇの」
「んー、あと2,3行で証明し終わるから」
「じゃぁ俺先行っとくで。テーピングとかの補充あるから」
「ん」


数学的帰納法というヤツは、ずっとやっとったら手にペンだこができる。
「ゆえに」とか「よって」とかの多用、あれもう少し省略できんのかな。

齋木の勉強姿を見てそんなことを考えてると、ふと齋木が顔を上げる。


「マネと選手両方やらせて悪いな」
「別に。今更やし」
「確かに。でもほんま助かった」


その言葉に、俺が固まっている間に。

「①②より、命題は全ての自然数nについて成り立つ」

齋木は最後の一行をノートに書き終えてしまっていた。
「……くん、紡君!」
『はい?』


名前も知らない、多分先輩だろう女の子に呼び止められる紡。
卒業証書が入った筒を肩に乗せ、女の子の方に振り向く。


「第二ボタン下さい!」


女の子に囲まれ、周りの野郎どもに冷やかされている紡。


『すいません、ボタン、もう無いんです』
「えー?!」


ブレザー、セーラー、私服。
様々な他校女子の悲鳴が上がる。


「はーい、紡君のブレザーボタン五個はこっちで販売してまーすっ!!」


紡に卒業証書を持たせたままの先輩が、紡のボタンを一個二千円で売っている。
売り上げ金はバスケ部の送別会費用に充てられる仕組みだ。
紡の他にもモテる奴らのボタンは売買されてて、代々の伝統行事になっているらしいけど。

もちろん俺やそいつらには先輩のお古のブレザーが支給されるわけ。
でなきゃ明日からボタン無しだからな。

けど、一人分で二千×五=一万円はぼったくりじゃねーのか。


「第二ボタンは五千円!!」


二千×四=一万三千円。
高い、高すぎる。
そして買うな、女子高生。


『……東、行こう』
『どこに』
『部室』


卒業式という告白ラッシュシーズンのせいで、紡はかなり疲れているらしい。
自分の卒業式でもないのに、どうして俺らは苦労するんだろう。

『なぁ、頼むわ』
『…………わかった、えぇよ』
『ほんま?』

嬉しそうな声で、聞き返してくるお前。
や、正直ほんまは嫌なんやにゃどさ。
なかなかしつこいし、他のクラスメートに笑われとるし。

それが正直、面白いんやけど居たたまれん、って言えばえぇんかなぁ。

『おーい、豊本がOKsてくれたでーっ!!』

窓を開けて、体育館の近くに居る集団に向かって叫ぶ。
すると、野太い声が聞こえてくる。
それはやったー、とか、よっしゃー、とか。

誰か一人でえぇから、嫌じゃー言うてくれんかな。
そしたら俺、断れるんにゃけど。

『齋木、お前女の子に頼む気無いん?』

お前やったら、引く手数多でしょーに。

『なんかアカンねん。豊本が一番器用やろ?』
『……ってかさ』
『ん?』
『わざわざ朝一に教室で言わんでも、部室で言えば良いのに』
『なんか忘れそうやったから』

カラカラと笑う。
……確かにお前は忘れっぽいよな。

『んじゃよろしくな、相棒!!』
『や、バスケは5人でするもんでしょ』
『それでも同じFWやねんから相棒やねんて』
『……さよか』

思わず納得してしまう。
だから、天然なんて言われるんやろか。
ま、えぇわ。

とりあえず、これからよろしく、相棒?
いつだって、俺は忘れないよ。
お前のことを考えて、一音いちおんに、心を込めて。
届いて欲しくない想いを乗せて、ホールの向こう側まで感動を届けるんだ。

『……いつの日か……君の笑顔が見れるまで……僕は泣いていよう……』

笑顔の仮面を被って 胸の痛みを押し殺して
君が幸せになるように祈って 自分の幸せを逃していく


『……紡ってさ』
『ん?』

次の曲のメロディーを聴きながら歌詞を作っていると、東がふと呟いた。

『ソロのとき、いっつも悲恋っていうか切な目な歌作るよな』
『東はどこまでもポップな曲だよな』
『そうそう』

二人で歌うときは、ハーモニー重視の歌。
しっとりのバラードも、ダンスナンバーも、ロックも。
全部、調和がとれた曲をコンセプトにして。
ふとした瞬間に口ずさんで貰えるような、そんな曲を目指している。

元々は俺も東もソロ、というかピンで活動してたんだけど、同じ事務所で同じ年、同期ということもあり、テレビや互いのコンサートにも何かと共演している。
俺のファンの中に東のファン、東のファンの中にも俺のファンっていう子も多くて。

「人気急上昇中の二人がユニットを組めば、相乗効果間違い無しだ!!」

……なんて、社長のひと言で今は主にユニット、たまにソロという形になっている。
まぁ社長はやり手だから、その読みは見事当たった訳なんだけど。

『俺、紡の歌好きだな~』
『俺もお前の歌好きだよ、ノリも良いし、なんか勇気づけてくれるってカンジ?』
『お前のは聴かせるんだよな、心に響く。さすが、うちの事務所一の歌唱力だな』

……東がそんな風に言うなんて珍しい。
いつもならそんなことは言わないのに。
……もしかして、もうあの命令が下りたわけ?

『社長から、なんか言われた?』
『……なんか、バンド組めって』

うちには、俺らと同世代のバンドが居る。
そいつらもめちゃくちゃ売れてるんだけど、東が入ってダブルヴォーカルになるんだそうだ。

『良いじゃん、お前前にバンド組んでたんだし』
『……紡はそれで良いのかよ?』
『しょうがねーよ。俺が言ってもどうにもなるもんじゃねーし』
『……どーせまたすぐにお前と組めるようになるよな?』

期待のこもった目で、俺を見てくる東。
とりあえず俺は嘘をつける性分ではないので、苦笑で返しておいた。

『……あ、じゃあこの曲お前にやるよ』

この曲、とは今作詞している曲で、東のために、というのは東がバンドデビューするのを祝って、という意味だ。

『良いのか?』
『あぁ。”俺とお前が不仲で解散”なんてマスコミに言われたくねーし』
『どーせ乗るなら”紡と東、美しい友情の一曲”って方が良いよな』

もっとも、俺らは不仲なんかじゃない。
社長が東にバンドデビューしろって言ったのも、きっと、これが俺の最後の曲になるからだろうし。
俺が居なくなったら、稼ぎ頭は東くらいだし。

そんな色々な想いは、笑顔で楽屋を出て行く東には言わないでおいた。

『……かんばれよ東、俺の分まで』




「……おい、東、テレビ見たか?!」
『なんだよ急に……え?』
「だからっ!!……紡、アイツ喉の病気に冒されててさ!この間の曲が最後の曲だったんだってさ!!」
「あの曲をレコーディングし終わった後すぐに入院したらしいけど、俺らのデビュー日の次の日に、病院で息を引き取ったって……」

……なぁ、東、俺の曲、お前に届いたか?
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